内積とは
今日は内積についてです。
内積は高校数学から登場する概念ですが、いろいろ奥が深い概念です。
ちなみに、
に対して、
「標準」とつくように、高校数学でも内積の計算の仕方はこのような方法で学習しました。
一方で、これ以外にも内積はたくさんあって、ある性質を満たす関係のことを内積といいます。言い換えるとある条件さえ満たせば、全部内積です。今から内積の満たすべき条件・定義と内積のいくつかの例を見ていきたいとおもいます。
定義(内積)
を線型空間とします。
上で定義された二変数の写像
が内積であるとは、任意の、
に対して、
・(第1変数に対する線型性)
・(第2変数に対する線型性)
・(エルミート対称性)
・⇒
(非退化性)
・(正値性)
を満たすことをいいます。
くどいようですが、以上の定義さえ満たせばその写像は内積です。
内積の例
①における内積
に対して、
②C^nにおける内積
に対して、
または、
、
はそれぞれ
、
の複素共役になります。
すなわち、複素ベクトル空間における内積は、一方のベクトルの成分の複素共役を取ったベクトルとの通常の内積になります。
③内積について
を
]上の連続関数とします。
内積を
=
と定義します。
今回は区間を[0,1]としましたが、別にどのように定義しても構いません。
この定義は内積の公理を満たしています。これは積分の線型性や非退化性から容易に確認することができます。
(数学科の1年の解析の授業で積分について当たり前と思われることをあれほど丁寧に行うのはそのためです。)
内積からノルムを定義する
ノルムの定義については以前書きましたのでそちらを参照いただければとおもいます。
今回は内積からノルムを定義します。
を
の元とします。
(でも同じことですが、より一般的な
を考えます)
のノルム
を
と定義することにより、
となって、通常のユークリッドノルムが定義できました。
次に、内積からノルムを構成しましょう。
=
というように構成することにより、ノルムを定義することができます。
これによりノルムを関数に対して定義することができます。
この内積・ノルムを用いて、三角関数がベクトル空間の基底となっていることをみたいと思います。それもただの基底でなく直交基底となってます。
また、適当な定数倍をかますことによりノルムを1とすることも容易なので、正規直交基底となります。(厳密には正規直交系と呼びます。)
=
=
=
よって任意のに対して、内積は
。以上の計算により直行性が示されました。
ついでにノルムを測って正規化しておきましょう。
任意のに対して
=
=
=
∴=
従って=
と定義すると、
は
]上の正規直交系となります。
ここで登場した内積の入った空間をヒルベルト空間といいます。ヒルベルト空間の話まですると収集がつかなくなりそうなので止めておきますが、解析学をやるうえではような空間になっています。