アマチュア数学者の日記

とある大学で数学を学んでいます。専門は偏微分方程式です。高校野球、マラソン、カメラ、数学、etc...多趣味です。様々なことを書いていきます。

熱方程式⑤解の安定性

今日も前回に引き続き、熱方程式の話です。

前回の記事はこちら

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今日は解の安定性について。まず、解が安定であるということと、問題が適正(well-posed)であることの定義から。

 

定義①

一般に数理物理の問題において、適当なノルムで測ったとき、

||解|| ≦ 定数 × ||データ||

となるとき、その問題の解は「安定である」といいます。

 

定義②

データから解を決定する数理物理の問題が、適正(well-posed)であるとは、各データに対して、解が一意に存在し、かつ、解がデータに連続に依存することを言います。

 

解の安定性を考えることでその問題がwell-posedであることを判断できるようになります。偏微分方程式の問題はたくさんありますが、一番大きな問題は偏微分方程式は解けないということです。これは常微分方程式にも当てはまります。

多くの人が勘違いしていることなのですが、微分方程式というものはそう簡単に解けるものではありません。数学という学問はものすごく長い歴史を持ちますが、未だに世の中に存在する微分方程式のほとんどは解き方が知られていません。これからもそれは変わらないでしょう。

微分方程式を研究する上で大切なことは、解の特徴や振る舞いを調べたり、解を近似したりすることです。そのうえでも調べる対象としてwell-posedであることは結構大事なことです。また、well-posedでない問題をいかに条件を変えることによってwell-posedにするかということに着眼点を置きます。

 以上が解の安定性は問題の適切性を考える主な理由になります。では実際に熱方程式の解がどのようなノルムに対して安定かを見ていきましょう。

 

定理

(1)~(3)を満たす熱方程式の初期値問題を考えます。

(1) \frac{\partial u}{\partial t}(t,x)=\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}(t,x)

(2)u(t,0)=u(t,1)=0

(3)u(0,x)=a(x) 

この熱方程式を満たす解は、最大値ノルムに関して安定です。また、最大値ノルムに関して、一様収束の意味で初期値に連続に依存します。

ここで最大値ノルムの定義を書いておきましょう。

 

定義(最大値ノルム)

任意の関数fに対して

||f||=max|f(x)|

と定めると||f||はノルム構造を持ちます。このノルムを最大値ノルムといいます。

 

定理の証明

(0,x)\in Γなので最大値の原理により

\max_{(t,x)\in Q}u(t,x) =\max_{(t,x)\in Γ }u(t,x)≦:max a(x)

||y(t,x)||≦||a(x)||  (ノルムは最大値ノルムです)

これにより安定性が示されました。

次に連続依存性について。

初期値がいろいろに与えられたとします。

初期値a_1(x)に対応する解をu_1(t,x)

初期値a_2(x)に対応する解をu_2(t,x)とします。

u(t,x)=u_1(t,x)-u_2(t,x)

と定義すると、uの満たす条件は、

(1) \frac{\partial u}{\partial t}(t,x)=\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}(t,x)

(2) u(t,0)=u(t,1)=0

(3)u(0,x)=a_1(x)-a_2(x)

となります。したがって、先に示した解の安定性から、

||u(t,x)||≦||a(_1x)-a_2(x)||

が得られます。u(t,x)=u_1(t,x)-u_2(t,x)だったので、

||u_1(t,x)-u_2(t,x)||≦||a_1(x)-a_2(x)||

となります。

ここでεを任意にとります。初期値が十分に近いとき、あるδがあって、

||a_1(x)-a_2(x)||≦δ

とできて、

||u_1(t,x)-u_2(t,x)||<δ

δ=εとすると

||u_1(t,x)-u_2(t,x)|| <ε

となって、u(t,x)は一様連続であることがわかりました。

 

この定理の主張は、最初の温度が近ければ時間が経ったときの温度も十分に近いということです。最初の温度を100度と100.1度に設定して放置すると、ある程度時間が経った後にも十分近い状態になっているよね、という主張です。

ここまで最大値ノルムに関して解が安定であることをみました。少し長くなりましたので本日はここまでにしたいと思います。次回はL_2ノルムに対して解が安定になることを見ていきたいと思います。