アマチュア数学者の日記

とある大学で数学を学んでいます。専門は偏微分方程式です。高校野球、マラソン、カメラ、数学、etc...多趣味です。様々なことを書いていきます。

熱方程式③最大値の原理

解析を専攻していると、どの分野でも「最大値の原理」が登場します。ほとんどの方は複素解析で耳にしたことがあると思いますが、実は解析のどの分野にもある原理です。

それぞれの分野ごとにこの最大値の原理の意味は異なるのですが、今日は自分の専門の熱方程式の最大値の原理の証明をしてみたいと思います。

熱方程式についてはこちら

www.ruhamata.work

まずは記号の準備を行います。

定義①

任意の正の数Tに対して、

Q = [0,T]×[0,1]

Γ = \{(0,x);0 ≤ x ≤ 1\}\cup \{(t,x);x=0,1\},

Q^o = Q\backslash Γ

とします。uが熱方程式  \frac{\partial u}{\partial t}(t,x)=\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}(t,x) の古典解であるとは以下の(1)~(3)満たすことをいいます。

(1) uQ= [0,T]×[0,1] で連続。

(2)  \frac{\partial u}{\partial t}(t,x),\frac{\partial u}{\partial x}(t,x),\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}(t,x), は Q^o = (0,1)×(0,T] で存在し、連続。

(3) Q^o \frac{\partial u}{\partial t}(t,x)=\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}(t,x) が成り立つ。

 

次に熱方程式を具体的な形で定義しておきましょう。今回は簡単のために以下のように定義することにします。

定義②(熱方程式の初期値・境界値問題)

(1) \frac{\partial u}{\partial t}(t,x)=\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}(t,x)

(2)u(t,0)=u(t,1)

(3)u(0,x)=a(x) 

以上の条件のある熱方程式を考えることにします。

 

定理(熱方程式の最大値・最小値の原理)

v = v(t,x) が、熱方程 式の Q^o における古典解ならば、

\max_{(t,x)\in Q}v(t,x) =\max_{(t,x)\in Γ }v(t,x)

\min_{(t,x)\in Q}v(t,x) =\min_{(t,x)\in Γ }v(t,x)

 

この定理の主張はQにおける熱方程式の最大値はΓで到達するということです。少しラフな説明をします。

Qは長方形の形をした領域です。(厳密には領域ではありませんが)Γは領域Qの境界(淵)です。温度の最小値&最大値は領域の一番端っこでとるという意味です。

例として、鉄球を考えましょう。野球ボールの位の大きさの鉄球をある温度まで熱します。わかりやすいように100度まで熱することにしましょう。熱した後常温で放置します。十分長い時間が経てば、鉄球の温度は中心も表面も同じになりますが、放置してまだ時間が経たないうちは、表面の温度が一番低く、中心の温度が一番高い状態になります。これは直感的に明らかです。逆に温度を0度まで冷やすと、温度が室温に近づいていく過程では、今中心が一番低く、表面が一番高い状態になります。このようにある「もの」の温度は表面が一番高い状態か、低い状態かのどちらかになっています。

少し長くなりましたが、証明をしたいと思います。

定理の証明

まずQはコンパクト集合なので確かに最大値及び最大値をとります。今回は最大値についてのみ証明します。ロジックは最小値についても同じことです。

 λ :=\max_{(t,x)\in Γ} v(t,x) 

と置きます。補助関数w(t,x)

w(t,x) := e^{−t}(v(t,x)−λ) 

と定義します。簡単な計算により、 v(t,x)= e^tw+λ が得られます。

これらをx偏微分することにより、

 \frac{\partial v}{\partial t}(t,x)=e^tw(t,x)+e^t\frac{\partial w}{\partial t}(t,x)

 \frac{\partial^2 v}{\partial t^2}(t,x)= e^t\frac{\partial^2 w}{\partial t^2}(t,x)が得られます。

これを熱方程式 \frac{\partial v}{\partial t}(t,x)= \frac{\partial^2 v}{\partial t^2}(t,x) に代入して

e^t\frac{\partial w}{\partial t}(t,x)+ e^t w= e^t \frac{\partial^2 w}{\partial t^2}(t,x)

e^t≧0 であるから、両辺をe^tでわることにより、

 \frac{\partial w}{\partial t}(t,x)+w(t,x)=\frac{\partial^2 w}{\partial t^2}(t,x) (x∈Q) ・・・(*)

が得られます。

µ = \max_ {(t,x)\in Q} w(t,x) とおき、µ ≤ 0背理法で証明します。k

以上の理由から、μ>0を仮定します。

正の最大値が (t_0,x_0)\in Qで到達されると仮定します。

(*)に (t_0,x_0)を代入することにより、

 \frac{\partial w}{\partial t}(t_0,x_0) + µ =  \frac{\partial^2 w}{\partial t^2}(t_0,x_0)  ・・・(**)

が得られます。

(t_0,x_0)は最大値になる点でしたので、左辺第1項は0になります。(厳密には境界上では0になるかはわかりませんが、必ず非負になります。)

仮定よりμ> 0

繰り返しになりますが、(t_0,x_0)は最大値をとる点ですので、xの2回微分は負になります。

まとめると、

 \frac{\partial w}{\partial t}(t_0,x_0)≧0

μ>0

 \frac{\partial^2 w}{\partial t^2}(t_0,x_0)≦0

①②③は(**)を満足しません。これにより矛盾が発生します。

よってμ≦0が導かれました。

Γ上では

w(t,x) = e^{−t} (v(t,x)−λ)≦e^{-t}(v(t,x)-v(t,x) )=0

w(t,x) ≦ 0

v(t,x)−λ≦0

v(t,x) ≦ λ

\max_{(t,x)\in Q}v(t,x) ≦[ax_{(t,x)\in Γ }]v(t,x)

Q\in Γなので

\max_{(t,x)\in Q}v(t,x) ≧max_{(t,x)\in Γ }]v(t,x)

は明らかです。以上により

\max_{(t,x)\in Q}v(t,x) =\max_{t,x)\in Γ }v(t,x)

が得られました。

※ちなみに補助関数(t,x)の置き方をw(t,x) = e^{−t}(λ-v(t,x))と置いて、上の証明と同じことをすると、最小値の方も示すことができます。

 

熱方程式の面白いところはこの「最大値の原理」を起点に様々な定理が導かれるということです。会の一意性や正値保存性、順序保存性など様々な定理の証明に使うことができます。また、それらの物理的事実は直感的に明らかなことが多く、非常に興味深いところです。それらの証明についても追々書いてみたいと思います。